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□ Sounds of Silence     2005年6月11日〜7月8日

とりあえずまずはボリュームをいっぱいに上げること。
耳ではなく体全体で音を浴びる。体を耳にすると言えばいいか。比喩ではなくごく当たり前の現実的な行為として、体を耳にするのである。
そのときあなたも音の一部である。いや、音があなたの一部になると言ってもいいのだが。そして放たれた音と聞き取られた音とが反転し、体がそれらの音の通路となって、音を聞いているはずの私が音を出すようになる。
それが音楽を聴くことである。
つまり音楽は私を変える。聞くことが演奏することとイコールになる地点へと、それらの音楽は私を運ぶ。そして変えられた私が今度は私のいる場所を変えるのだ。
音楽は世界を変える。 無声映画でない限り、映画のサウンドトラックには何らかの音が入っている。映画を見るとき我々はそれを意識しないが、たとえばそこに入れられた幽かな雑音によって、スクリーンに映されている空間の広がりを体感する。
その場に置かれた登場人物の感情のうねりを知る。複数の人間たちの関係の緊張を知る。
あるいは、彼らの行動の根源や物語が紡ぎ出される不可視の場所へと降り立つことも出来る。
爆音で映画を見るとは、その不可視の何かを視界に浮上させることでもある。
通常は隠れて見えないそれらを可視化させ、聴覚ではなく視覚の体験として我々の身体に刻みつける試み。
『ジェリー』の二人が砂漠の中をさまよい、『右側に気をつけろ』のリタ・ミツコが音のうねりの中でふと立ち止まるとき、彼らもまた、その不可視の何かを見つめようとしていたはずなのだ。
たとえばそれを、「夢見ること」と言い換えてもいいかもしれない。
我々は「ドリーマーズ」である。 夢見る者であり夢見られた者である。
『デーモンラヴァー』が示すのは、そんな我々の身体の揺らぎではないか。
「爆音以後」、我々はその揺らぎと共に生きることになるだろう。
(boid / 樋口泰人)



『デーモンラヴァー』 DEMONLOVER 

(2002年作品 120分)
監督:オリヴィエ・アサイヤス
出演:コニー・ニールセン、シャルル・ベルリング、クロエ・セヴィニー、ジーナ・ガーション
撮影:ドゥニ・ルノワール
音楽:ソニック・ユース
録音:フィリップ・リシャール

『ジェリー』の砂漠、『右側に気をつけろ』のスタジオ、『ドリーマーズ』のパリ、そして『デーモンラヴァー』のモニタの中が同じ「ひとつの場所」であることは、明らかだ。ソニック・ユースなら『NYC ゴースツ・アンド・フラワーズ』呼ぶはずのそこは、まさに幽霊たちと花々が集う妖しく艶めかしい場所であるだろう。その幽霊たちや花々が奏でるノイズを、ソニック・ユースはそれぞれの楽器に乗せる。そしてそこに浮かび上がる物語=歴史を、この映画は映し出している。

『ジェリー』 GERRY  

(2002年作品 103分)
監督:ガス・ヴァン・サント
出演:マット・デイモン、ケイシー・アフレック
撮影:ハリス・サヴィデス
音楽:アルヴォ・ペルト
音響デザイン:レスリー・シャッツ

振り下ろされた指が鍵盤に当たるまでの空気の流れを聴かせようとでも言うのかのようなアルヴォ・ベルトの繊細なタッチそのものを、ガス・ヴァン・サントはここで映像化しているのではないか。そんな幽かな存在として、砂漠の中に、二人のジェリーがいる。一人であり二人であるような、そして、それぞれがそれぞれのエコーであるような存在。爆音でなければおそらく聞こえてこないはずのマット・デイモンの心臓の鼓動や横たわる彼らの周りを舞うハエの羽音に耳を傾けてみたい。

『右側に気をつけろ』 SOIGNE TA DROITE  

(1987年作品 82分)
監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演:ジャン=リュック・ゴダール、ジャック・ヴィルレ、フランソワ・ペリエ、ジェーン・バーキン、リタ・ ミツコ
撮影:カロリーヌ・シャンプチエ
音楽:リタ・ミツコ
録音:フランソワ・ミュジー

ゴダールとフランソワ・ミュジーが行った映画の音響に関するさまざまな試みは、『リア王』『ヌーヴェル・ヴァーグ』の中に、宇宙空間おいて聞こえてくるような透明で狂気すれすれの音響として結実する。その音の探求の最終章でもある『右側に気をつけろ』は、それらの音が生まれる秘密の場所へ向けての運動の記録でもある。「地上にひとつの場所を」という字幕が波のように繰り返されるとき、地上であり宇宙であるようなひとつの場所に、我々は投げ出されることになるだろう。

『ドリーマーズ』 THE DREAMERS  

(2003年作品 115分)
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
出演:マイケル・ピット、ルイ・ガレル、エヴァ・グリーン
撮影:ファビオ・チャンチェッティ
音楽(使用楽曲):ボブ・ディラン、ジミ・ヘンドリクス、ジャニス・ジョプリン、ミッシェル・ポルナレフ他
サウンド・ミキサー:スチュワート・ウィルソン
冒頭、延々と続くエッフェル塔の下降ショットと共にジミ・ヘンドリックスの音が鳴り響く、そのめくるめくグルーヴに連れ去られて我々は68年のパリに着地することになるのだが、しかしおそらくCG合成されているはずのエッフェル塔のショットの持続が示すのは、そこはかつてあったパリでもなく、現在の視点から再構成された68年でもなく、現実と虚構とで構成された世界の裂け目そのもののような場所なのだということである。音はそこから聞こえてくる。
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