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私は世界に大変な不幸が起こった夢を見ます。その不幸のなかで、ある国全体が、ある民族全体が消えてしまうのです。もしかしたら、消えたのではなくて、この世界から去ったのかもしれません。ある能力を得て、または、何かの手法で、国民全体が別のところへ行ってしまったということかもしれません。残されたものは小さな島。
でも誰もいません。そこには家並みがあり、町並みがあり、かつて住んでいた痕跡があって、彼らが使っていた品々が廃屋の中に見られます。木造の古い家。瓦の屋根。島は大きくありません。周辺は海です。霧が立ち込めています。鳥の囀り。そして風や潮騒の音。早朝−−もしかしたら日暮れかもしれません。私はその島の大地に足を踏み込みます。町には誰もいません。その見捨てられた町を私は歩きます。再び鳥の声。風の音。潮騒。けれども、誰もいない。
−−アレクサンドル・ソクーロフ(『ソクーロフとの対話』<河出書房新社>より)


ソクーロフの作り出す、誰もが知っているはずなのに見たことはない映像の歪みや、色彩や光の微細な変化は、常にそこに貼りつく幽かな音たちとともにある。
はっきりと意識することはできないが気がつくとまるで淡い光のように視覚へ飛び込んでくる音の襞。
主人公たちを撫でるように音楽をつけたいとソクーロフはかつて語った。
その肌触りが光を変え、私たちの遠近感を狂わす。
そんな音を、息を潜めて目を凝らし見つめてみたい。
隠れていた音をちょっとだけ前に出す爆音上映である。