映画祭事務局セレクション
たった二人の出演者がたどる時間の旅。耳が瞳に変わる
TOCHKA
6/2(水) 21:00
2008年/HDV/93分/ 日本
提供:トーチカ・ユニオン
監督:松村浩行
出演:藤田陽子、菅田俊

畠山地平&クリストフ・シャルルによるライヴあり
 
ふたりの男女の間には断絶線が厳しく引かれ、隣にいるは ずなのに越えがたい距離を生む。風と波のハードコアな轟 音はその亀裂を押し広げるばかりだ。この一線を自由に越 境するのは声だけで、しかしそれが距離を埋めることはな い。むしろ、言葉を交わすほどに二人はより遠ざけられ、 あるいはひとつの暴力として、外から聴こえる男の告白に よって、さながら懺悔室へと様変わりさせられたトーチカ で茶を淹れる女の顔を震わせる。しかしその震えは、眼そ れ自体であるような空間であるトーチカが、耳へと変貌し たことに由来する。そこでキャメラは耳の孔であり、ひと つのショットにおいて、そこに映ってはいない男の声を集 め、鼓膜としての女の顔がその声に震えるとき、遠ざけら れた距離においてすら、ふたりが否応なく共に生きている という真実を語るだろう。
ロシアとの国境近い根室の海岸沿いの荒 野に取り残されたトーチカ。人気もないそ の場所に佇むひとりの男。それを見つめて いたひとりの女。男は女から逃げるように その場から立ち去る。不可解な言葉を残し て。その言葉の意味を確かめるべく追って きた女に対して、やがて男はトーチカに関 わる自らの記憶を語り出す。
BGM は一切排した寂々たる世界。男女の声、その空間の音だけが透明に響く。荒野を吹く風の爆音に震える。