映画祭事務局セレクション
老婆と戦場。ありえない接続が作る世界の摩擦音の饗宴
チェチェンへ  アレクサンドラの旅
6/1(火) 11:30   6/3(木) 14:15
2007年/92分/35mm/ロシア=フランス
提供:パンドラ、太秦
監督:アレクサンドル・ソクーロフ
出演:ガリーナ・ヴィシネフスカヤ、
ヴァシリー・シェフツォフ

先着20名に「フィルムしおり」をプレゼントあり
※両日午前10:30から発行する整理券の受付順で先着とさせていただきます
 
言葉とは何か? それは意味を持った音のつらなりである。 その限りにおいてここに言葉はない。のべつまくなしに画面を埋め尽くす軍用機の騒音や 鳥のさえずり、吹き荒ぶ砂塵や兵隊たちのさざめきなど、数多の生々しい音響に意味を奪 い去られた言葉が、剥き出しの音として埃っぽいチェチェンの大地を彷徨うばかりだ。“こ の作品は戦争についての映画だが、戦争そのものは描いていていない” と語るソクーロフは、 だから嘘つきだといってよい。なぜならこの映画は、意味を剥奪された言葉が音との戦争 を通して、ふたたび意味を獲得した音としての言葉を呟くまでのアレクサンドラの旅を描 いているからだ。勝利とともに彼女が呟く言葉が何かは秘密だが、戦場を飄々と彷徨う彼 女がただ一度きり泣き崩れ、夜の静けさに響く若かりし日の自らの歌声を背に、孫の無骨 な手が銀色の長い髪を結うシーンに漲る詩情は、この戦争にアレクサンドラが勝利したこ とを寡黙に告げている。
80 歳になるアレクサンドラはロシア軍 の大尉を務める孫のデニスに会うために彼 の駐屯地であり、戦場の最前線であるチェ チェンまではるばるやって来る。戦地での 暮らしをしていくうちに彼女はそこにいる 軍人や現地の人々と親交を次第に深めてい くことになる。実際にチェチェンに赴き、 オールロケを敢行した。
戦場というきわめて非日常的な空間に於いてこそ、せり出してくる日常的な音の数々。そのざわめきに驚く。