50年代半ばにロックンロールと呼ばれ世界に登場したそれはさまざまな場所でさまざまな形をとりつつしかしたった一つのものであり続ける。
そしてそれゆえ、常にまったく別のものであり続ける。
エルヴィスの極上のファルセットをマーク・ボランがきらびやかなヴィブラートへと変えたとき、テキサスの怪物バンド、レジェンダリー・スターダスト・カウボーイズからデヴィッド・ボウイがジギー・スターダストを作り上げたとき、「グラム」は産まれた。
ロックンロールの奇形であり、最もゴージャスでグラマラスな姿であるグラム・ロック。
常に最も異様なものであり、最も華麗なものであるそれは、かけがえのないたった一つのものと共にあり続ける。
ウェイン・カウンティがジェイン・カウンティとなり、ロックスターを夢見るハンセルがヘドウィグとなって怒りの1インチを振りかざしても、彼らは常にそれ以上は変えられない何かと共にあり続ける。
映画はそれを映す。
そのめくるめく変容の示す不変の姿。
映画はそれを恐れない。
ひとつの物語を語ること、それが映画であり、グラムである。
樋口泰人(boid )
上映作品
『ムーラン・ルージュ』(2001年作品 128分)
監督:バズ・ラーマン
出演:ニコール・キッドマン、ユアン・マクレガー
同じユアン・マクレガーでも『ベルベット・ゴールドマイン』ではなくこちらを。
ロックが作った世界のその「革命の子供たち」(T.レックス)の物語。
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(2001年作品 92分)
監督・出演:ジョン・キャメロン・ミッチェル
股間に宿るロックの魂。そこで増幅された1インチの怒りが世界を覆う。
その狂おしくもばかばかしい身もだえと共に。
『ベルリンブルース』(1983年作品 91分)
監督:ローザ・フォン・ブラウンハイム
出演:ウェイン/ジェイン・カウンティ、アンジー・スターダスト
実際に性転換してしまったロックンローラー、ウェイン・カウンティ。
ヘドウィグのオリジナルと言える彼の雄姿が再び。今宵限りの特別上映。
『ジギー・スターダスト』(1973年作品 90分)
監督:D.A.ペネベイカー
出演:デヴィッド・ボウイ
73年ボウイのワールドツアー、最後を飾るロンドン公演の模様。
「ロックンロール・スーイサイド」は常に更新され続けるだろう。